長恨歌 不夜城完結編 / 馳星周


長恨歌


 馳星周『長恨歌 不夜城完結編』を読了。
 ネタバレなしで書きます。

『不夜城』といったら金城武さん主演で映画化もされたので、名前ぐらいは聞いたことのある方が多いと思う。
 おいらは映画も観たが、なんといっても原作の小説が大好きなのです。

 これは3部作のシリーズになっており、2作目は『鎮魂歌(レクイエム)』。
 今回読んだ完結編は『長恨歌(ちょうごんか)』です。

 このシリーズは外れなし。
 本作を読むのをずっと楽しみにしていた。

 文庫本で545ページとそれなりの長さなんだけど、自分の場合は1日にあんまり読み過ぎないように気をつけていた。
 面白い小説ってもちろん、読んでいる最中が1番楽しいわけだが、それがあっという間に終わってしまうのがもったいなく感じてしまう。
 それでも、怒涛の展開となる後半は先が気になって、一気に読んでしまった。

 この『不夜城』シリーズは、ジャンルではノワール小説にあたる。
 ノワール小説とは、日本語にすると暗黒小説。
 社会の闇、暴力、犯罪などが描かれることが多い。

『不夜城』は新宿歌舞伎町を舞台の中心とし、出てくる人物は中国人ばかり。
 暴力と狂気、策略と裏切りが渦巻く、社会の闇を描いている。
 筆致も独特で好きなんだよね。
 馳さんは、新宿ゴールデン街でのアルバイトをしていたことがあり、新宿界隈で飲み歩いていた実体験や、書評家として活躍していた豊富な読書暦などが、作品にも表れているのでしょう。

『不夜城』と『鎮魂歌』を読んだのは、大学生のとき。
 衝撃的だった。
 大筋は覚えているけど、細部はだいぶ忘れているから、そのうちまた読み返そうかな。

 シリーズ毎に主人公が変わっている。
 最初の『不夜城』では、台湾人の父と日本人の母を持つ半々(バンバン)の劉健一。
 中国語ではハーフのことを半々(バンバン)と呼ぶ。
 2作目の『鎮魂歌』では、台湾人の殺し屋・郭秋生と、元新宿署の悪徳警官だった滝沢誠という二人の視点で、交互に物語が進んでいく。
 完結編の『長恨歌』では、元は中国人でありながら、戸籍を改ざんして残留孤児二世として日本にやってきた武基裕が主人公。

 本作を読み終わった感想としては、非常に切なかった。
 バタバタと人が死んでいくこのシリーズは、どれも救いがない。
 ハッピーエンドではないどころか、メインの登場人物には、ハッピーと呼べるひと時すら存在しない。
 もがき苦しみながら、必死に闘い、生き抜こうとしている。

 あと、キャラクター造形が見事で、魅力的な人たちばかり。
 映像化したくなる気持ちはよく分かるが、実際に映画化された『不夜城』は微妙だった。
 あれだけの濃厚なストーリーを2時間で表現するのは、さすがに厳しいわな。
 何よりも、登場人物がほとんど中国人で、会話も北京語や台湾語がメインなのだから、これはどうにも難しいでしょう。
 小説を読んでいると、頭の中でキャラが動いている様子が浮かんでくる。
 商業的なヒットを度外視し、莫大なコストと労力をかけられたら、さぞ面白い映像作品になるんだろうな。

 長い恨みの歌。
 ネタバレ防止でなんのことかはいわないが、読み終えると、これはあの人から見たタイトルなんだろうと思う。
 そう思うと、また切なくなる。
 あれだけのことをしたあの人が報われず、その想いが欠片も届いていないなんて。

 暴力満載のノワール小説だけど、読み終わると心に染みる。