ヴァンパイア
岩井俊二監督が好きなので、公開初日に観てきました。
狙って行ったわけではないのですが、岩井俊二さんと蒼井優さんによる舞台挨拶があり、得した気分。
蒼井優さんは「0歳以来」というショートカットを初披露。
蒼井優さんの映画デビューは、岩井俊二監督の『リリイ・シュシュのすべて』。
この映画は舞台がカナダで全編英語なのですが、唯一の日本人として出演しているのが蒼井優さん。
岩井さん曰く、不思議な縁としか思えないとのこと。
Q. 出会ってから、相手の変わった部分は?
岩井俊二さん → 蒼井優さん
A. 髪型。あとは変わっていない。
蒼井優さん → 岩井俊二さん
A. 変態度
岩井俊二さんによると、蒼井優さんは成長こそすれど、その人の芯の部分が出会ったときからまるで変わらない、と。
蒼井優さんからは、岩井さんは『花とアリス』で、なぜにあんなに少女の機微が分かるのかとびっくりし、この映画では更に変態度が増していて。
会う度に変態度が増しており、パーセンテージでいうと「∞」だそうです。
確かに、かなり変態な映画です。
前置きが長くなりましたが、『花とアリス』以来、8年ぶりの岩井さんの劇場長編映画。
岩井さんといったら、『花とアリス』、『四月物語』、『Love Letter』といった心暖まる映画を作るかと思えば、『リリイ・シュシュのすべて』、『PicNic』といった問題作のうつ映画も撮る人です。
ほんで、この『ヴァンパイア』は、分類するならうつ映画の方です。
痛いです。
見た目にも痛々しいものがあるし、なんといってもストーリーや心理描写。
なので、観る人によって間違いなく好き嫌いが別れます。
一般ウケはしないでしょうけど、自分の場合、がすごす胸に突き刺さりました。
岩井さんが、「誰も撮ったことのない、ヴァンパイア映画を撮りたかった」と語る通り、この映画で描かれているのは、フツーのヴァンパイアではありません。
昼間も外を歩くし、特に十字架やにんにくが苦手といった描写もありません。
更にいうなら、彼は本当にヴァンパイアなのかも怪しいもんです。
端的にいうなら、自殺志願者の幇助をし、血を抜き取る男の話なのですが、この映画はストーリーを語っても、あまり意味はないのでは。
主題や、何がいいたいのかがはっきり描かれていないので、観た人が感じるものは人それぞれでしょう。
そして、おそらくは自分のように、よく分からないけど、何か心を揺さぶられる人がいるんだと思います。
宣伝に「惹かれあう孤独な魂たち」というキャッチフレーズがあり、見事にこの映画の性質を現しています。
日本は、年間自殺者が交通事故で亡くなる方の約3倍という、とんでもない国です。
この映画はカナダを舞台にして、自殺志願者を描くことにより、日本での現実感を薄め、世界でもこういったことがあるのかなと思わせつつ、ああ、これは現代の話なんだなと感じました。
また、岩井さんならではの独特な映像描写により、現実とフィクションの境界が曖昧になっているような感覚も覚えます。
自殺幇助なんて聞いたら、いいイメージを持つ人はほとんどいないでしょうし、法的にも社会的にも許されることではありません。
ただ、この映画を観ていると、自殺幇助をする主人公が、なんて心優しい人なんだろうと、自分は感じました。
それが証拠に、本当に死にたがっている人にしか手を貸さなかったり、教え子に必死に命の大切さを説いたり、ヴァンパイアが輸血をすることの意味を知っていたはずなのに助けてしまったり・・・。
見方によっては、自殺を肯定するようなとんでもない話ですが、それがいいたいことではないはずです。
この現代社会、死にたくなるほど孤独な気持ちを抱えている人が、どんだけいるんだろうって考えました。
死にたくなるほどじゃなかったとしても、日々の生活で孤独を感じる人も多くいるでしょう。
この映画でも、これから自殺する人が、
「私は人生を楽しめなかったし、もうここまででいいけど、生まれ変わっても、また人間になりたいな」とかさぁ・・・。
切なすぎる。
色んなことを曖昧にしている映画で、いってしまえば、「よく分からないけど、なんか刺さる」というのが、率直な感想です。
映像表現や映画の空気感は、さすがの岩井さん。
救われない話でも、あの空気感がたまらないんです。
音楽の使い方も素晴らしい。
今回は、風船の使い方が絶妙でした。
また、窓のない、地下の部屋の天井一面に貼られた空の写真、その部屋で飼われている鳥と、飼い主の女の子から主人公へのお願い。
なんだか、空への渇望を思わせる描写が多かったです。
孤独の中で希望を求める暗喩なんでしょう。
自分の中でのベストシーンは二つ。
一つは、風船の拘束具をつけた母がピアノを弾き、部屋の椅子で小さく一人うずくまっている主人公。
もう一つは、3枚目の写真のシーンです。
泣きそうになってきます。
変な映画ですが、自分にとっては、さすがの岩井俊二監督でした。