鉄道員(ぽっぽや) / 浅田次郎


 直木賞受賞作品。
 浅田次郎さんはこれが処女短編集。
 初挑戦でこのクオリティーかよ。

 全部で8編で、解説の北川次郎さんによると、特に人気が集中しているのは、これら4編とのこと。

・鉄道員(ぽっぽや)
・ラブ・レター
・角筈にて
・うらぼんえ

 ほんでは、一つ一つの感想を。



『鉄道員(ぽっぽや)』

 高倉健さんが主演した映画でお馴染みなので、名前ぐらいは知っている人も多いことだろう。
 映画も観たが、小説の方が圧倒的によい。
 小説の駅長さんのイメージからすると、健さんじゃかっこよすぎるな。
 まぁ、映画にするにあたっては、しゃーないが。

 いやー、切なくて温かい話だ。
 これは、先日の海外旅行に行ったときに、飛行機の中で読んだ。
 周りにいっぱい人がいるのに、読んでいて泣いてもーた。

 ほとんどがセリフで構成されているため、親近感があって、イメージしやすい。
 北海道のロートル線が舞台ということで、美しい雪景色が頭に浮かぶ。

 映画だと、「ぽっぽや」という言葉の意味が伝わりづらい面もあったが、小説だとよく分かる。
 警笛をぽっぽーと鳴らす、駅の男。
 ただひたすら、その仕事を45年やり続けた男。

 短編として、過不足のない見事な話だった。



『ラブ・レター』

 この短編集では、表題作の『鉄道員(ぽっぽや)』と、この『ラブ・レター』が特に好きだった。
 解説の北川さんによると、『ラブ・レター』は女性人気が高いらしい。

 いやー、切なすぎるでしょ。
 これも最後は読みながら泣いてしまった。

 しかも、これが浅田さんの実体験からきた話だというから、びっくりだ。
 どんな苦労をしているんだ、この方は。

 作中から少し紹介。

-----------------------------------
 ここはみんなやさしいです。組の人もお客さんもみんなやさしいです。海も山もきれいでやさしいです。ずっとここで働きたいです。
 謝謝。それだけ。海の音きこえます。吾郎さんきこえますか。
 みんなやさしいけど、吾郎さんがいちばんやさしいです。私と結婚してくれたから。
 謝謝。多謝。おやすみなさい。

-----------------------------------

 うあー、思い出しても切なくなる。
 ネタバレしたくないから、あえてあんまり内容は書かないでおく。



『悪魔』

 こえー。
 こんな怖い短編は、初めて読んだかも。
 読後感も強烈。

 浅田さんは、『鉄道員(ぽっぽや)』とこの『悪魔』を全く同じ時期に書きながら、意図的に対照的な作品としたそうだ。
『鉄道員』は三人称多視点で書かれ、ディテールの多くを会話分で構築している。
『悪魔』は一人称一視点の私小説風で、ハードタッチな平文構造。
 この異なった手法は、意識的に使い分け、自分に適した方法というのを試したとのこと。

 構造だけでなく、切なくて温かい『鉄道員』と、暗くて冷たくて怖い『悪魔』ということで、内容も対照的。

 改めて、浅田さんは天才だと思わされる。
 本人は、自分は才能がないなんていっているけど、読者からすると何をおっしゃるってところ。
 まぁ、本人にしか分からない苦労があり、才能でデビューした方ではないというのは分かるが。



『角筈にて』

 解説の北川さんは、ダントツでこれが1番好きとな。

 確かに、中年男にはたまらない作品かもしれない。
 オレは今でもいい短編だと感じるが、年をとったら、更に味わい深くなるんだろう。

 これも切ない。

 少年だった主人公の心境、父親の心境、親戚の心境。
 大人になった主人公の心境、嫁の心境、主人公の部下の心境。

 みんな、いい人なんだよね。
 それぞれの立場と想いが伝わってくる。
 あんな上司を持った部下は幸せだろうな。

『蒼穹の昴』で直木賞に落選し、失意の中で、「こんなのしか書けなかったよ」と泣く泣く編集者に原稿を渡したという浅田さん。
 いやいや、「こんなにも素晴らしい作品」の間違いでしょ。
 これが、本人のいまわしい幼児体験からきているって時点で、この方の苦労は計り知れない。



『伽羅』

 これも、経験なしに書けるものじゃないよな、と思いながら読んではいたが。
 ファッション業界に長く身を置いていたとは知らなんだ。
 どこまで経験の広い方なのよ。

 この短編集は、切ない話ばっかりだ。

 主人公の男の心変わりは、単純に、恋が人を変えるって話なんだろうな。
 いい人になりたかったんだろう。
 まぁ、あの話の後は、また戻っていくのかもしれないが。

 ファッション業界もけっこー黒いのね。
 今はどうなっているのか知らんが、少なくとも、こういう時代が間違いなく存在したんだろう。
 人を食いものにして稼ぐのがトップ営業か。
 営業ってやったことがないから知らんが、そういった側面がある業界は多いのかな。



『うらぼんえ』

 もう切ない切ないっていいすぎだから、いっておくと、この短編集は『悪魔』以外は全て切ない。

「ちえ子には帰る家がなかった」という冒頭から始まる、この短編。
 つまるところ、これに浅田さんの原体験が集約されているという。

 登場人物が多い短編だが、人物の書き分けがすごいね。
 あー、こういう人いるわーって思わされる。

 弱い者いじめという、かっこ悪いことをしている人たちの前に、さっそうと現れたあの人が爽快だった。



『ろくでなしのサンタ』

 この主人公は、浅田さんそのものとの話。
 めちゃめちゃいい人やん。
 気弱で、頭がいいとはいえないが、人のよさは隠し切れない。

 作中の北川みたいな犯罪者って切ないね。
 同じ犯罪でも、共犯者の存在と、逮捕される順番で、どえらく罪の重さが変わるという。

 とある刑事ドラマの某すみれさんのセリフ。
「罪に重いも軽いもない」

 これには、いやー、そうか? って思ってしまう。
 明らかに人として許せない犯罪もあれば、この程度なら、反省して次はすんなよ、って流せる犯罪もあるんでないの。

 主人公のサンタはろくでなしかもしれないが、人でなしではない。



『オリヲン座からの招待状』

 これも切なかったけど、締めにふさわしく、読後感はすげーよかった。
 過去と現在の交錯、新たな未来への予感とな。

 こういう映画館の館長って実際にいるんだろうけど、オレからすると、頭が上がらないよね。
 人を喜ばせることに、人生の全てを捧げた人。
 今の多くの政治家の対極じゃなかろうか。

 大人になり、ある程度の年を重ねていくと、戻れないことも多々あるわけで。
 後悔していても、プライドが邪魔をして、素直な言葉が出てこなかったり。



 う、ここまで書くつもりはなかったのに、気づけば熱くなっていた。
 いい小説ですよ。