梅




 コートのポケットに両手を突っ込みながら歩いている。家までそろそろだ。
 大学に入ってから一人暮らしをしている中、春休みに入ったので、久しぶりの帰省だった。
 玄関に向かう前に、まずは庭に足を伸ばした。
 ジョニーが嬉しそうに飛びつく。
 そのまま抱きつかせると、コートが汚れてしまうので、両手で受け止めた。
 この犬も今年で十歳か。
 この様子なら、まだまだ元気に長生きできそうだ。
 春休みの間に、一度ぐらいは自分も散歩に連れて行こう。
 梅の木の前で、足を止める。
 僕の梅の木。
 地元の幼稚園では、卒園のときに、梅の苗が一人一人に贈られた。
 幼かった僕は、両親にこういった。
「これで、もう梅は買わなくていいね」
 両親は笑った。
 庭に植えた苗は、僕と共に大きくなっていき、いつしか、僕の背丈を追い越していた。
 今では毎年、青い実をつける。
 夏前に梅の実をとる作業は一苦労だ。
 今の梅の木には、赤いつぼみがある。
 来月にはキレイなピンク色の花が咲くだろう。
 花は必ず毎年、同じ季節に咲くのがいいところだという話を聞いた。
 デジタルカメラをとり出し、つぼみを撮った。
 見ると、焦点が合っていなかったので、もう一度シャッターを切った。
「おかえりー」
 母が家からベランダに出てきた。
 ほら、といって、先程の画像を見せた。
 うん、キレイだね。
 僕の梅の花が今年も見られる。
 初めて咲くその日を、逃したくないと思った。