ゆとり

 秋の陽射しが、フロントガラスを通して心地よい。今日は外を歩くと風が幾分か涼しかったが、車の中にいるとちょうどいい暖かさだ。日曜日の昼にしては道路が空いていて、快適なドライブを楽しんでいた。
 助手席には、先ほど店で借りてきたビデオがある。何年か前に流行ったのだが、今まで目にすることのできていなかったアクション映画だ。
 最近は映画を観る機会が少なく、劇場には一年以上足を運んでいない。久しぶりに時間ができ、ふいに観たくなった。
 家内に、何か借りてきてほしいものはあるか、と聞くと、任せるという答えだった。家内は映画が嫌いではないし、私が借りてくれば一緒に観るが、これといった執着心はない。家内には気にせず選んだ。
 交差点を左折した。家まではそろそろだ。
 信号のない横断歩道の前に、女の子が立っている。小学生の低学年だろう。この通りを車が走るのは珍しくないが、交通量は多くないので、待っていればいずれは必ず渡れる横断歩道だ。
 私は特に急ぐ必要もなかったので、車を止めた。反対車線を通る車もなく、女の子が渡れる環境が整った。
 女の子は左右を確認した後に、私に頭を下げ、横断歩道を渡った。
 渡り終えると、女の子は後ろに向き直り、また頭を下げる。表情は変わっていなかったが、丁寧な動作だった。
 ハンドルを握っていた右手を軽く上げ、車を発進させた。
 珍しいな、と思った。自分がいいことをした気分になった。
 家で待っている家内には、借りてきた映画のタイトルの前に今の女の子のことを話そうと、運転しながら考えていた。